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マイペース数学者のブログ

大阪在住数学者のブログです。どうしても、数学関連のことがメインになると思います。

ブログにも書ける整数論的特異点論

最近書いていた新しい論文がひとまず完成したので、arXivにアップロードした。

https://arxiv.org/abs/1610.03593

論文タイトルはVojta's conjecture for singular varieties (特異代数多様体に対するVojtaの予想)。最近は、少なくとも数学では、論文を書いたらarXivなどのプレプリント・サーバーにアップロードして、世界中の人が見られるようにして、その後、雑誌に投稿して、査読を経て数年後に紙媒体などで出版されるというのが一般的な流れになっている。前の論文をarXivにアップしたのが去年の5月だったので、しばらく時間があいてしまった。

 

数学の研究成果を説明するには、普通たくさんの抽象的な理論や概念が必要となるので、専門家以外に説明するのが難しい、というのが数学者に共通の悩みの種だ。しかし、今回の研究で、ブログで書けるぐらいに簡単な定理を見つけたので、紹介したい。これは、僕の最近の研究テーマである「整数論特異点論」の中の一定理です。

 

定理は最大公約数と平面曲線の特異点を関係づけるものです。二つの整数a,bに対し、最大公約数\gcd(a,b)は、a,bの両方を割り切る最大の自然数と定義される。最大公約数は次のように不等式で上と下から押さえることができる。

 \displaystyle 1 \leqq \gcd(a,b) \leqq \min \{|a|,|b|\}

ここで考えたいのはa,bをいろいろ動かしたときに、\gcd(a,b)の大きさがどのように変化するか、という問題です。a,bが勝手な整数の組を動く場合には、上の不等式評価以上のものは得られない。a,bが互いに素な整数組を動けば、\gcd(a,b)=1であり、このような整数組は無数にありる。また、b\ne 0aの倍数であれば、

  \gcd(a,b) = |a| = \min \{|a|,|b|\}

となる。このような整数組も無数にある。

 

そこで、勝手な整数組ではなく、ある特定の条件を満たすものだけを考えてみよう。今回は条件として、ある整数を係数とする2変数多項式f(x,y)を最初に固定して、 f(a,b)=0となる整数組(a,b)だけを考えることにする。例として、互いに素な自然数 m \lt nに対して、

 \displaystyle f(x,y) = x^m - y^n

という多項式を考える。f(x,y)=0を満たす実数組(x,y)全体は平面内の曲線になる。 f(a,b)=0となる整数組(a,b)というのは、この曲線の点でx座標もy座標もともに整数であるような点と同じことです。

 

例えばm=2,\,n=3の場合、次の曲線になります。座標が整数の点は(0,0), (1,1), (1,-1), (4,8), (4,-8),...などです。

f:id:highernash:20161013203940j:plain

この曲線は原点のところが尖ったように見える。このような点は曲線の「特異点」と呼ばれる。特異点は、通常図形の解析を困難にする厄介者である一方で、多くの情報がそこに集約されている特別に大事な点でもある。この特異点の場所や複雑さが、今回の定理の鍵です。

 

一般に、 f(x,y) = x^m - y^nの場合、このような整数組はある整数cに対して (c^n,c^m)という形になる。そして、その最大公約数は

 \displaystyle \gcd(c^n,c^m) = c^m = \min\{|c^m|,|c^n|\}=\max\{|c^m|,|c^n|\}^{m/n}

となる。今回紹介する定理との関係で、最後に \maxを使った式も書いた。

 

次に、f(x,y)を少し変形して

 \displaystyle g(x,y) = (x+1)^m - (y+1)^n

という多項式を考える。曲線g(x,y)=0は曲線f(x,y)=0を平行移動した物になっている。原点が(-1,-1)に、(1,1)が原点に移動する平行移動です。このことから、曲線g(x,y)=0は原点を通るが、原点は特異点ではなく、そこではこの曲線は滑らかにカーブしている。g(a,b)=0を満たす整数組は、 (c^n-1,c^m-1)という形をしてるが、最大公約数は

 \gcd(c^n-1,c^m-1)=c-1

となる。これは、以下のように確かめられる。まず、 c^n-1,c^m-1はともにc-1で割り切れるので、c-1は公約数となる。c-1で二つの数を割ると、

\displaystyle c^{n-1} + c^{n-2}+\cdots+c+1,

\displaystyle c^{m-1} + c^{m-2}+\cdots+c+1,

となる。これらが互いに素であることを確かめれば良い。これは、ユークリッドの互除法と同様の議論で確かめられる。(ここで、m,nが互いに素であるという仮定を使う。)\gcd(c^n-1,c^m-1)の大体の大きさを見ることで、

 \gcd(c^n-1,c^m-1)=c-1 \doteqdot \max\{|c^n-1|,|c^m-1|\}^{1/n}

という評価が得られる。

 

最後にもう一つ、

 \displaystyle h(x,y)=x^m - (y+1)^n

という多項式を考えます。曲線 h(x,y)=0も曲線 f(x,y)=0の平行移動です。今度の曲線は原点を通らない。 h(a,b)=0を満たす整数組は(c^n,c^m-1)という形だが、この二つの整数は互いに素なので、

 \gcd(c^n,c^m-1)=1=\max\{|c^n|,|c^m-1|\}^{0/n}

となる。

 

まとめると、三つの多項式 f(x,y),\,g(x,y),\,h(x,y)のそれぞれに対して、対応する方程式を満たす整数組a,bの最大公約数は

 \gcd(a,b) \doteqdot \max\{|a|,|b|\}^{r/n}

という形の近似式を満たし、rの値はそれぞれm,1,0となる。種明かしをすると、このrの値は曲線の原点での「重複度」と呼ばれる値です。重複度が0だと、その曲線は原点を通らず、重複度が1だと原点を通り、曲線はそこで滑らかで、重複度が 2以上だと原点を通り、原点は曲線の特異点となる。さらに、重複度が大きいほど、特異点が複雑になる。重複度は特異点の複雑さを数値化したものだと言うことができる。代数的には、原点での重複度は多項式を展開して整理したときに出てくる項の最小の次数です。例えば、g(x,y)を展開するとmx-nyという1次の項が出てくるので重複度は1h(x,y)は定数項-1が出てくるので重複度は0という具合です。ちなみに、出てくる項の最大の次数が、その多項式の次数であり、それが分数r/nの分母として現れている。

 

上と同様のことが、もっと一般の多項式の場合でも成り立つというのが紹介したかった定理です。正確に書くと次のようになる。

 

定理:f(x,y)を係数が整数の2変数多項式で既約(因数分解できない)ものとする。rを曲線f(x,y)=0の原点での重複度とする。このとき、f(a,b)=0を満たす全ての整数組(a,b) \ne (0,0) が不等式

 \displaystyle C \max\{|a|,|b|\}^{r/n} \leqq \gcd (a,b) \leqq C' \max\{|a|,|b|\}^{r/n}

を満たすような定数C,C' \gt 0が存在する。

 

証明はここには書けないけれど、専門家にとっては、とても基本的なことしか使わない簡単な物です。証明も内容も簡単な定理なので、既に知られているかもと思ったけれど、少し調べた範囲では見つからなかったので、論文にも書くことにした。簡単だけど、一見するととても不思議な定理で、気に入っている。

 

(書いているうちに文体が変わってしまう症候群にいまだに悩まされ中)

 

2016/11/06:この記事を再利用するために、勢いで書いた最後の締めの一句は削除した。